偶然がデザインを変えた。エルメス「オレンジの箱」の誕生秘話

偶然がデザインを変えた。エルメス「オレンジの箱」の誕生秘話のイメージ

資材不足という偶然から誕生した、ハイブランドが手がけるオレンジのオリジナルボックス
(画像元:Hermès)

高級ブランドの魅力は、商品そのものだけではありません。

リボンを解く瞬間のときめき、箱を開ける音、手に伝わる質感。それらの体験すべてが「ブランドの世界観」を形づくっています。エルメスにとって、その象徴が“オレンジの箱”です。
しかし、この鮮やかな色は、意図して選ばれたものではなく、偶然の産物でした。

戦時中の資材不足が生んだ「オレンジ」

ハイブランドの創業初期の上品な色合いが美しいオリジナルボックスハイブランドの創業初期の上品な色合いが美しいオリジナルボックス
(画像元:ランタンエルメス)                    (画像元:ランタンエルメス)                    

エルメス創業初期、商品を包む箱はベージュに近い上品な色合いでした。当時のハイブランドの常識として、「控えめであること」が高級の証とされていたからです。

ベージュやアイボリーは、静かな格調を表す“正統の色”でした。
しかし第二次世界大戦中、資材不足によりその紙が入手できなくなります。代わりに倉庫に残っていたのは、明るいオレンジ色の厚紙。「仕方なく使うしかない」そんな“やむを得ない選択”から、オレンジの箱は誕生しました。ところがこの偶然こそが、後にエルメスのブランドを象徴する革新へとつながります。

 

デザインの力が「偶然」を「必然」に変えた

資材不足という偶然から誕生した、ハイブランドが手がけるオレンジのオリジナルボックス 資材不足という偶然から誕生した、ハイブランドが手がけるオレンジのオリジナルボックス
(画像元:ランタンエルメス)                (画像元:fashionsnap)

オレンジ色は当時の高級品の常識から外れた異端の色でした。
それでもエルメスは、その色を否定せず、むしろデザインで美しく整えました。箱の中央に馬車のロゴを配し、茶色のリボン(ボルドゥック)で包み、サイズも製品ごとに緻密に設計。結果として、オレンジの箱は他ブランドとは一線を画す、圧倒的な存在感を放ち始めます。

「控えめ=上品」という既成概念の中で、あえて“目に残る上品さ”を成立させた。それは偶然に見えて、デザインの意志が宿った選択でした。

差別化の本質は「色」ではなく「姿勢」

やがてエルメスのオレンジは、ブランドそのものを語る象徴になります。法的には登録できない色でも、人々の記憶の中では完全に「エルメスの色」として定着しました。その理由は、単なる色の印象ではなく、「偶然を美に変えた姿勢」にあります。

他社と同じ方向を向くのではなく、状況を受け入れ、そこから独自の美学を導き出す。これこそがデザインの本質であり、ブランドが永く輝き続ける理由です。

 

デザインとは「偶然を必然に変える力」

資材不足という偶然から誕生した、ハイブランドが手がけるオレンジのオリジナルボックス
(画像元:Soho Pari)  

ハイブランドが皆ベージュを選んでいた時代に、偶然から生まれたオレンジ。それは単なる色の違いではなく、「思いもよらない選択を、デザインで価値に変えた」象徴でした。制約を恐れず、流行を追わず、今ある素材で最上をつくる。

エルメスのオレンジの箱は、デザインとは「偶然を必然に変える力」だと静かに教えてくれます。

 

 


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